大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)5506号 判決 1982年8月31日

原告

土川善司

被告

株式会社小林製作所

外1名

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

1 被告株式会社小林製作所は、別紙イ号図面及びその説明書、同ロ号図面及びその説明書記載の各観音開き扉の鎖錠装置を製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのため展示してはならない。

2  被告木村新株式会社は、別紙イ号図面及びその説明書、同ロ号図面及びその説明書記載の各観音開き扉の鎖錠装置を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのため展示してはならない。

3  被告らは、それぞれの各肩書地本店、工場又は倉庫内に存する別紙イ号図面及びその説明書、同ロ号図面及びその説明書記載の各観音開き扉の鎖錠装置又はその半製品を廃棄せよ。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行の宣言。

2 被告ら

主文同旨

第2原告の請求原因

1  原告は、次の実用新案権(以下これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有している。

考案の名称 観音開き扉の鎖錠装置の改良

出願 昭和44年7月15日(実願昭44―67165)

公告 昭和49年7月31日(実公昭49―28160)

登録 昭和50年5月12日(第1080120号)

登録請求の範囲

「固定壁側に取付けられる本体Cと、扉側に取付けられる1対の係合片8とから成り、前記本体Cは1対の三角状移動部材3・3を有し、該移動部材3・3はその一部を露出させた状態で且スプリング6によって互いに離反する方向に力を受けた状態で前記本体Cのケースに摺動回動変位自在に取付け、更に前記1対の係合片8は夫々前記移動部材に係合する凹陥部を備えている観音開き扉の鎖錠装置の改良。」

2  本件考案の構成要件及び作用効果は次のとおりである。

1 構成要件

「観音開き扉の鎖錠装置の改良」に関するものであって、

(1)  固定壁側に取付けられる本体Cと、扉側に取付けられる1対の係合片8・8とから成るものであること。

(2)  本体Cは、1対の三角状移動部材3・3を有していること。

(3)  移動部材3・3は、その一部を露出させた状態で、かつスプリング6によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体Cのケースに摺動回動変位自在に取付けられていること。

(4)  1対の係合片8・8は、それぞれ移動部材3・3に係合する凹陥部を備えていること。

2 作用効果

(1)  1対の三角状移動部材3・3がその頂角部を露出させた状態で、かつスプリング6によって互いに離反する方向に圧力を受けた状態で、本体Cのケースに摺動回動変位自在に取付けられているので、いま例えば右側の移動部材3に係合する係合片8を移動部材3から離反させる場合に、同移動部材は引抜き作用によってスプリング6を圧縮しながら相対する左側の移動部材3の方向に向って移動し、このため同移動部材にかかるスプリング6の押圧力が著しく増大されて同移動部材を一時的に強く保持し、これにより同移動部材に係合する左側の係合片8を確実に係合、つまり仮締めすることになる。すなわち、本件考案によれば、それぞれの係合片8・8を取付けた左右の扉は、その順序を問わず左右いずれからでも開放でき、しかもその一方の扉の開放時においては他方の扉が共開きすることが防止される。

(2)  従来の製品のごとく、一方の扉のみを固定するパッチリ等の錠装置を別個に設けることを省略できるとともに、移動部材とスプリングの簡素な構成部材から成るので故障がなく、かつ組立てが容易で安価に製作できる。

3  被告株式会社小林製作所(以下「被告小林製作所」という)は、「ロックキャッチ」なる標章を用いて、別紙イ号図面及びその説明書、同ロ号図面及びその説明書記載の各観音開き扉の鎖錠装置(ただし、右各説明書中の2、3(2)を除く)(以下それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」といい、あわせて「被告製品」という)を業として製造販売し、被告木村新株式会社(以下「被告木村新」という)は、被告製品を、被告小林製作所から買入れ業として他に販売している。

4  被告製品の構成及び作用効果は次のとおりである。

1 構成

「観音開き扉の鎖錠装置」であって、

(1)' 固定壁側(1)に取付けられる本体(C)と、扉側(2)・(2)に取付けられる1対の係合片(8)・(8)とから成る。

(2)' 本体(C)は、1対の三角状移動部材(3)・(3)を有している。なお、三角状移動部材(3)・(3)には、移動部材(3)・(3)の基底部側に基底部を底辺とする薄い台形状の舌片(3a)・(3a)が一体的に連設せられている。

(3)' 移動部材(3)・(3)は、その一部を露出させた状態で、かつスプリング(6)によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体(C)のケース(5)に摺動回動変位自在に取付けられている。

(4)' 1対の係合片(8)・(8)は、それぞれ移動部材(3)・(3)に係合する凹陥部を備えている。

2 作用効果

被告製品は、前記構成により、本件考案と同一の作用効果を奏する。

5  被告製品は、以下のとおり本件考案の構成要件を充足し、本件考案と同一の作用効果を奏するから、その技術的範囲に属する。

1 本件考案及び被告製品は、いずれも「観音開き扉の鎖錠装置」であり、被告製品の構成(1)'、(3)'、(4)'は、それぞれ本件考案の構成要件(1)、(3)、(4)を充足し、両者は右構造上の特徴に基づく同一の作用効果を奏する。

2 被告製品の構成(2)'にある三角状移動部材(3)・(3)は、移動部材(3)・(3)の基底部側に基底部を底辺とする薄い台形状の舌片(3a)・(3a)が一体的に建設される付加構造となってはいるものの、本件考案の構成要件(2)を充足しており、同一の作用効果を奏する。すなわち、被告製品の三角状移動部材(3)・(3)は、(3)'、(4)'の構成と相まって、一方の移動部材(3)に係合する係合片(8)を移動部材(3)から離反させる場合に、同移動部材(3)は、引抜き作用によってスプリング(6)を圧縮しながら相対する他方の移動部材(3)の方向に向って移動し、このため他方の移動部材(3)にかかるスプリング(6)の押圧力が著しく増大されて同移動部材を一時的に強く保持し、これにより同移動部材に係合する係合片(8)を確実に係合して、いわゆる仮締めすることになり、係合片(8)・(8)を取付けた左右の扉は、その順序を問わず左右いずれからでも開放でき、しかも一方の扉の開放時に他方の扉の共開きが防止されるとの本件考案と同一の作用効果を奏する。被告製品の右付加構造は、本件考案との対比において格別の作用効果を奏していない。

6  以上のとおりであるから、被告小林製作所は業として被告製品を製造販売することにより、被告木村新は業として被告製品を販売することにより、原告の有する本件実用新案権を侵害している。

7  よって原告は、被告小林製作所に対して、被告製品の製造・譲渡・貸渡しのための展示の差止め、被告木村新に対して、右製造以外の右各行為の差止め、並びに被告らに対して、それぞれ、その肩書地本店、工場、又は倉庫内に存する被告製品又はその半製品の廃棄をそれぞれ求める。

第3請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3のうち、被告小林製作所が「ロックキャッチ」の標章を用いて、「観音開き扉の鎖錠装置」を業として製造販売し、被告木村新がこれを被告小林製作所から買入れ業として他に販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。

なお、被告らは現在イ号物件を製造販売又は販売していない。また、原告の主張するロ号物件の図面は、その寸法が不正確であるとともに、閉止状態を示すロ号図面第3図において、係合片(8)の脚部とケース(5)の前面との間に隙間が形成される状態で本体(C)が取付けられている。本来の取付位置は右と異なり、別紙被告図面第3図のとおり、係合片(8)の脚部とケース(5)の前面とが面接するように、本体(C)が取付けられるべきである。

4  同4の事実は否認する。

5  同5は争う。

6  同6の事実は否認する。

7  同7は争う。

第4被告らの主張

1  実用新案法5条3項違反による無効

本件考案の訂正公報(以下「本件公報」という、甲第14号証)の第3図に示されている実施例では、スプリング6は細巻きのコイルスプリングであって、その左右両端は板状体を介して三角状移動部材の両端部底部に固着されている。いま、この状態で右側の扉を開いて右側の係合片8を移動部材3から引き抜くと、移動部材3は底部隅角部を支点として回動しながら左の方向へ摺動する。そのとき、スプリング6は板状体を介して移動部材3に固着されているから、移動部材3の回動力はそのままスプリング6にも伝わり、スプリング6は圧縮変形するだけでなく、アーチ状に湾曲しスプリングの押圧力が減殺されるため、他方の扉の仮締め効果を生じなくなる。右の構造からすれば、本実用新案の登録は、実用新案法5条3項に違反する無効のものといわなければならない。

2  ロ号物件の構成と作用効果

1 構成

「観音開き扉の鎖錠装置」に関するものであって、

(1)' 固定壁側(1)に取付けられる本体(C)と、扉側(2)・(2)に取付けられる1対の係合片(8)・(8)とから成る。

(2)' 本体Cには、外側面が三角状イで、内側面が前後1対の緩い傾斜面ロ・ロからなる「く」の字状に形成された移動部材3・3を有しており、移動部材(3)・(3)には、その基底部側に基底部を底辺とする薄い台形状の舌片(3)a・(3a)が一体的に連設されている。

(3)' 移動部材(3)・(3)は、その一部を外方に露出させた状態で、左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介したスプリング(6)によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体(C)のケース(5)に移動変位自在に取付けられている。

(4)' 1対の係合片(8)・(8)は、それぞれ移動部材(3)・(3)に係合する凹陥部を備えている。

2 作用効果

(1)(1) 1対の移動部材(3)・(3)がその一部を外方に露出させた状態で、左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介したスプリング(6)によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体(C)のケースに移動変位自在に取付けられており、かつ一方の移動部材(3)がケース(5)内に没した際、左右のスプリング受片(61)・(61)同志が面当接するように構成されているため、いま例えば別紙被告図面第4図に示すように右側の扉を開放する場合、右側の移動部材(3)に係合する係合片(8)を同移動部材から離脱すると、同移動部材がスプリング(6)に抗してケース(5)内に没するが、その際右側のスプリング受片(61)は、ケース(5)内を左側に移動して、右側の係合片(8)が移動部材(3)から離脱する瞬間に、左側のスプリング受片(61)に面当接し、スプリング(6)にはそれ以上の圧縮力は加わらないで、左側の移動部材(3)の移動を完全に阻止することとなる。つまり右側の扉の開放動作時に左側の扉が開放するのを確実にロックすることとなる。

(2) また、左右の扉を同時に開放しようとするとき、左右の移動部材(3)・(3)が同時にケース(5)内に没する方向に移動するが、完全に没して係合片(8)・(8)との係合が離脱する前に、左右のスプリング受片(61)・(61)同志がケース(5)内中央部で面当接することとなるので、スプリング(6)にそれ以上の圧縮力が加わらず、左右の扉の同時開放が阻止されることとなる。したがって、スプリング(6)が損壊したり甘くなった場合あるいは振動等が加わっても、左右の扉が自然に開くのを防止する働きがあり、かつスプリング(6)に必要以上の圧縮力が加わることを防止し、スプリング(6)の寿命を延ばす効果を有する。

(2) 左右1対の移動部材(3)・(3)とスプリング(6)とが直接接続されず、左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介して間接的に接続されているため、移動部材(3)の回動没入時にスプリング(6)には左右方向の直線的な圧縮力のみが加わり、前後方向の曲げ力が作用することがない。したがって、移動部材の回動没入時の抵抗がそれだけ少なくてすむとともに、スプリング(6)の寿命が延びることとなる。

(3)  移動部材(3)・(3)の内側面が前後1対の傾斜面ロ・ロからなる「く」の字状に形成され、かつ同内側面に内方に向けて前後両側面が傾斜した台形状の舌片(3a)を一体に連接しているから、一方の扉の開放に際して移動部材(3)が没入する場合に、同移動部材は当初回動しながら没入し、その舌片(3a)の一方の傾斜面がケース(5)の内側壁に当接した時点で回動を停止し、以後係合片(8)の押圧力を受けながら内方ヘスライドする。このとき、移動部材(3)の内側面の一方の傾斜面ロがスプリング受片(61)に当接した状態となる。したがって、移動部材(3)と係合片(8)との係合量が大きい没入初期には、移動部材(3)を回動させつつ没入せしめることにより、係合片(8)との摩擦抵抗を最小限に押えてスムースに没入せしめることができ、係合片(8)との係合が浅くなった時点で移動部材(3)の回動を止めて回り過ぎによるトラブル、例えば姿勢が極端に変ったために移動部材(3)がケース(5)内にひっかかって戻らなくなったり、ケース(5)内壁との摩擦抵抗が大きくなってスムースに没入できなくなったりすることを防止できる。かつ、移動部材(3)の回動が停止した後は、移動部材(3)の内側面の傾斜面ロがスプリング受片(61)に面接触して同受片(61)に真横直線的に押圧力を加え、正確に左右一直線状にスライドさせて移動部材(3)をさらに一層スムースに没入させることができる。

3  イ号物件の特徴

イ号物件においては、一方の扉の開放時に、移動部材(3)に連設された台形状の舌片(3a)の先端角部が、他方の移動部材(3)の舌片(3a)に点接触することにより、他方の扉をロックするものであり、かつ、左右の扉を同時に開放しようとする場合には、左右の舌片(3a)・(3a)の角部同志が当接することにより、左右の扉の同時開放を阻止するものである。

ところが、イ号物件では、右のように舌片(3a)の角部の点当接によりロック作用がなされるものであるため、舌片(3a)の角部が欠損するおそれがあった。そこで、スプリング受片(61)・(61)を舌片(3a)・(3)a

より長く形成し、左右のスプリング受片(61)・(61)の面当接によりロックするように改良したのであって、右改良品がロ号物件である。

4  公知公用技術の存在

本件考案の出願前次の公知公用技術が存在し、それらはいずれも本件考案の構成要件をすべて充足するものであるから、本件考案はいわゆる全部公知に当る。

1 米国特許第1013553号公報(乙第1号証、特許日1912年1月2日、以下これに示されている技術思想を公知技術①という)

右公報には、次の構造、すなわち、固定壁側に取付けられるケーシング5と扉側に取付けられる1対のキャッチ17・19とからなり、ケーシング5にはスプリング13によって互いに離反する方向に力を受け、長手方向に移動可能な1対のラッチ9・10を有し、スプリング13内に挿通された棒11の一端がラッチ9に固着され、その他端はラッチ10の孔12を貫通している。キャッチ17・19の切欠き18・18にラッチ9・10が係合することにより、扉2・5が係止され、扉3の開放時にラッチ9は棒11とともに左へ移動し、棒11の先端がラッチ10の孔12よりキャッチ17の切欠き18内に挿入することにより扉2を錠止して共開きを防止する、との構造が図面とともに示されており、しかも、図示はされていないけれども、本文の69行目ないし75行目に、「しかしながら、もし望むなら、私は棒11をキャッチ17の切欠き18に係合しないよう短くすることによって、扉2の積極的錠止をなしですませてもよい。その場合、各々の扉を閉めると単に各々の扉が係止されるだけであり、二つの扉は互いに独立して開けることができる。」とも記載されている。

前記公報には、右のとおり左右いずれからでも開放でき、かつ一方の扉の開放時にスプリングの圧縮力が他方の移動部材に対する押圧力を著しく増大させ、他方の移動部材に係合する係合片を確実に仮締めして共開きを防止するという本件考案における主要な構成と作用効果が示されており、ただ同公報には本件考案の「回動変位自在な三角状移動部材」が示されていないけれども、「回動変位自在な三角状移動部材」は本件考案の出願前当業者にとって周知の構成であり、移動部材を、上公知技術のように単に左右に移動変位するように取付けるか、本件考案のように取付けるかは、設計者の位意選択事項にすぎない。

したがって、公知技術①は、本件考案の構成要件のすべてを充足する。

2 英国特許第473852号公報(乙第2号証、昭和13年2月14日特許局陳列館受入、以下これに示されている技術思想を公知技術②という)

右公報には、その第6図に、次の構造、すなわち、固定壁側に取付けられる本体と扉側に取付けられる1対のキャッチとからなり、本体には、スプリング29によって互いに離反する方向に力を受け、スプリング29に抗して回動変位可能な1対の三角状キャッチボルト13a・16aを有し、扉側に取付けられたキャッチの先端内面に設けられた穴に三角状キャッチボルト13a・16aの先端が係合することにより、2枚の扉が係止される観音開き式扉の錠止構造が示されている。

なお、この錠止構造には、三角状キャッチボルト13a・16aの手前に固定用ボルト9aが設けられており、左右の扉の閉止状態において左側の扉が完全に固定されるように構成されている。

右のとおり、同公報の第6図に示す実施例には、本件考案の全構成要件を充足する観音開き式扉の鎖錠装置の構造に、固定用ボルト9aの固定機構を付加することにより、右側の扉を開けなければ左側の扉を開けることができない新たな作用効果を付加したものが示されているところ、同固定機構を省略しうることは当業者ならずとも自明なことである。したがって、右公報の第6図に示されている公知技術中には、本件考案の構成要件がそっくり内在しているということができる。すなわち、同図中の扉側の1対のキャッチと本体側の1対のキャッチボルト13a・16aとスプリング29からなる構成及び作用効果は、本件考案における扉側の1対の係合片8・8と本体側の1対の移動部材3・3とスプリング6からなる構成及び作用効果と一致する。

3 「ドリームキャッチ」の広告(乙第3号証、雑誌「室内」昭和42年11月号163頁所載、以下これに示されている技術思想を公知技術③という)

右広告には、固定壁側に取付けられる本体と、扉側に取付けられる1対の係合片とからなり、本体には左右1対の移動部材の先端が外方に突出している構造の観音開き式扉の鎖錠装置ドリームキャッチの写真と画が掲載されている。

ドリームキャッチの構成は、移動部材が円板形であること、ストッパー部材が付加されていることの点で本件考案と差異があるものの、同移動部材が係合片の引抜き時に回動することにより、摩擦抵抗を軽減している点では本件考案の三角状のものと差異がない上に、前記のとおり移動部材を三角状にすることは設計的事項にすぎない。

したがって、「ドリームキァッチ」の構成は、ストッパー部材を取去れば、本件考案の全構成要件とほぼ一致することとなる。

4 公用技術の存在

右3のドリームキャッチについては、昭和43年7月頃、被告木村新において原告の経営していた大安金属製作所から仕入れ、訴外旭工芸株式会社等に販売していたことがある。

右公用技術については、3と同一のことがいえる。

5 全部公知による限定解釈

本件考案は、いわゆる全部公知のものであること右のとおりであるから、その技術的範囲は願書に添付の明細書に記載された実施例に限定した解釈がなされるべきである。

1 本件公報によると、その実施例にかかる構成要件は次のとおりである。

Ⅰ  洋服ダンス等の固定部材の上壁内面1又は下壁内面の前端中央に取付けられる本体Cと、扉の側に取付けられる1対の係合片8とから成ること。

Ⅱ(イ)  本体Cは1対の三角状移動部材3・3を有し、

(ロ) 移動部材3・3は、その頂角部4・4を露出させた状態で、矩形状ケース5内でスプリング6により互いに離反する方向に力を受けて、摺動自在及び回動変位自在に配置されていること。

(ハ) 移動部材3・3は、ケース5の両端屈曲部7・7によって、ケースから外部に抜け出ることが阻止されていること。

Ⅲ(イ)  移動部材3・3に係合する1対の係合片8・8が左右の扉2・2に取付けられていること。

(ロ) 係合片8・8は三角状移動部材3・3の頂角部4・4に係合するように三角状の凹陥部9を備えていること。

2 ロ号物件の構成と実施例との対比

(1) ロ号物件は、本件考案の右構成要件のうち(Ⅰ)、(Ⅲ)(イ)を充足するが、その余を充足しない。

(2) 本件考案における移動部材3・3は、文字通り三角状であるが、ロ号物件における移動部材(3)・(3)は、外側面が三角状イで、内側面が1対の傾斜面ロ・ロからなる「く」の字状に形成され、かつ同内側面に内方に向けて前後両側面が傾斜した台形板状の舌片(3a)を一体に連設している。

(3) 本件考案では移動部材3・3とスプリングとが直接接続されているが、ロ号物件では移動部材(3)・(3)とスプリング(6)とが左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介して間接的に接続されている。

(4) ロ号物件は本件考案の右構成要件(Ⅱ)(ハ)を有していない。

(5) ロ号物件は右構成要件(Ⅲ)(ロ)の凹陥部について本件考案とその構造を異にする。

3 作用効果上の相違

右の構造上の相違から作用効果上の相違を生ずる。

(1) すなわち、本件考案は仮締めする作用効果を生ずることを狙いとするのに対し、ロ号物件のものは仮締め効果を有せず、一方の扉の開放時に他方の扉を完全にロックするものである。

(2) 本件考案とロ号物件では移動部材の構成が異なる結果、本件考案では、係合片8を移動部材3から離脱せしめるときにかなりの抵抗感を有し、スムースに扉を開閉できないけれども、ロ号物件では、移動部材(3)と係合片(8)との係合量が大きい没入初期には、移動部材(3)を軽く回動させつつスムースに没入させることができ、係合片(8)との係合が浅くなった時点で、移動部材(3)の回動を舌片(3a)により止めて回りすぎによるトラブル、例えば姿勢が極端に変ったために移動部材(3)がケース(5)内にひっかかって戻らなくなることを防止できる。しかも、移動部材(3)の回転が停止した後は、移動部材(3)の内側面の傾斜面ロがスプリング受片(61)に面接触して同スプリング受片(61)に真横直線的に横圧力を加え、正確に左右一直線状にスライドさせて移動部材(3)をスムースに没入させることができ軽く扉を開閉できる。

(3) 本件考案では、移動部材3・3とスプリング6とが直接接続されているから、移動部材3の回動没入時にスプリング6が圧縮されながら前後方向に湾曲するため、移動部材3の回動没入時の抵抗が大きいとともに、スプリング6の損傷が激しい。これに対し、ロ号物件では、移動部材(3)・(3)とスプリング(6)とが左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介して間接的に接続されているから、移動部材(3)の回動没入時に、スプリング(6)は左右方向の直線的な圧縮力のみが加わり、前後方向の曲げ力が作用することがない。したがって、移動部材の回動没入時の抵抗がそれだけ少なくて済むとともに、スプリング(6)の寿命も長い。

4 右のとおり、ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属しないことは明らかである。

6 右限定解釈の主張が理由がないとしても、以下の理由により被告製品は本件考案の技術的範囲に属しない。

1 ロ号物件について

(1) ロ号物件は、原告主張の本件考案の構成要件のうち(1)(2)(4)を充足するが、(3)を充足しない。

すなわち、本件考案において移動部材3・3とスプリング6とが直接的に接続され、かつスプリング6が装着されている技術的意味は、移物部材3・3に係合する扉側の左右の係合片8・8に係合力を付与せしめるだけでなく、一方の扉の開放時にスプリング6が圧縮され、その圧縮力が他方の移動部材を押圧して他方の扉を仮締めする作用・効果が生ずることを狙いとするものである。この仮締めが本件考案の主たる効果であることは、明細書の詳細な説明の記載及び前記公知技術①ないし③に照らし、明らかである。

これに対し、ロ号物件における移動部材(3)・(3)とスプリング(6)とはスプリング受片(61)・(61)を介して間接的に接続されている。スプリング(6)を装着する技術的意味は、単に移動部材(3)・(3)に係合する扉側の左右の係合片(3)・(8)に係合力を付与するだけあって、本件考案のように、一方の扉の開放時に他方の扉を仮締めする作用・効果は全く有していない。ロ号物件における共開きの防止は、本件考案のようにスプリング6による仮締めによってではなく、左右1対のスプリング受片(61)・(61)の面当接によって、一方の扉の開放時に他方の扉を完全にロックすることにより、達成するものである。

この作用効果の相違は、本件考案では移動部材3・3とスプリング6とが直接的に接続しているのに対し、ロ号物件では1対のスプリング受片(61)・(61)を介して間接的に接続している構成上の相違による、すなわちロ号物件が本件考案の構成要件(3)を実質的に充足していないことに基づくものである。

(2) 本件考案は、その効果が仮締めにすぎないから、それにより「共開き」は防止されるけれども左右の扉の同時開放が可能であり、かつ鉄砲錠等の本締め錠を付設して施錠しても扉は開いてしまい、本締め錠の機能が全くないのに対し、ロ号物件では、一方の扉の開放時及び左右両扉の同時開放時に、いずれも左右のスプリング受片(61)・(61)同志が面当接してロックされる結果、「共開き」はもちろん左右の扉の同時開放が阻止されるとともに、鉄砲錠等の本締め錠を付設して錠止すれば本締めの機能を有するもので、本件考案とイ号物件とは別異の技術である。

2 イ号物件について

右1のとおり、ロ号物件では、スプリング受片(61)・(61)の当接によりロックするのに対し、イ号物件では、移動部材(3)・(3)の基底部に連接された薄い台形状の舌片(3a)・(3a)の当接によりロックするものであって、右のほかは両物件は同一構造である。したがって、イ号物件は、ロック機構がなくスプリングの押圧力による仮締めによって共開きを防止するにすぎない本件考案の技術的範囲に属しないことが明らかである。

第5原告の反論

1  実用新案法5条3項違反の主張(被告らの主張1)について

被告らの主張は、以下のとおり、明細書解釈の基本原則を逸脱し、当業者の技術常識に反するものである。

本件考案の明細書には、その技術的思想を理解するために必要な技術事項が当業者に理解できるように具体的に記述されている。のみならず、願書に添付される図面は、当該考案の実施例に関し、いわば説明図として作成されるものであって、本件考案に即していえば、必ずしもスプリングの長さや弾力の強さを写実的に図面化する必要がないのみならず、スプリングが湾曲変形しないような構造を具体的に図面化する必要もない。これらは、当業者が実施する際に技術常識に従って設計上適宜取捨選択し製品化すべき事項であって、明細書の実施例説明のための図面中に簡略化した表示がなされているからといって、本件考案の技術思想自体や実施例に関する明細書の具体的記述を、簡略化した図面の記載どおりに修正限定して理解しなければならない筋合いはない。

2  被告製品の舌片又は受片の面当接に関する主張(被告らの主張21、2)について

1 イ号物件において舌片(3a)・(3a)同志が、ロ号物件においてスプリング受片(61)・(61)同志が当接しないことについての被告らの自認

イ号物件と同旨の考案の実用新案出願に関する出願公告決定(実公昭55―第11976号)に対して原告が異議申立をし、「両係合片の一方が没入した際に、これの規制部が他方の規制部に当接してその係合片の没入を阻止することによって、一方の扉の開閉時には他方の扉の閉塞姿勢を堅持できるようにした当該出願考案は、実施不能であって産業上利用することができない」旨主張したところ、被告小林製作所は、その答弁書において「規制部同志の「当接」に関しては本来それほど厳密に考える必要はない」とか、「開扉時における一方の係合片の没入時に規制部同志間に多少の隙間が空いてもよい方向で本装置を取付ければ、現実には何ら問題とならない。」と答弁することによって、当該出願考案が産業上利用することができる考案であることの論拠とするに至った。同被告の右答弁は、被告製品を家具に取付ける場合には、一方の扉の開閉に際して舌片(3a)・(3a)同志又はスプリング受片(61)・(61)同志が当接しないことについて被告らが自認していることを示すものである。

2 のみならず、実際の操作においてロ号物件のスプリング受片(61)・(61)同志が面当接することはない。

(1)  例えば右側の扉を開放し始めるとき、本体C内の右側の移動部材(3)はスプリング(6)の弾力に抗して左側移動部材(3)の方向に移動し始めるのであるが、右側移動部材(3)が移動するに従って左側の移動部材(3)にかかるスプリング(6)の押圧力が著しく増大して同移動部材を一時的に強く保持し、これにより同移動部材に係合する左側の係合片(8)を確実に係合、すなわち仮締めすることになる。

(2)  移動部材(3)は、係合片(8)の引き抜き作用によって移動するのであるが、ロ号物件の係合片(8)と移動部材(3)との係合位置は移動部材(3)の先端に比較的近くなるように設計製作されているため、右側係合片(8)の引抜きによる移動部材(3)の移動変位量とこれに伴う右側スプリング受片(61)の移動量も僅かで、左右のスプリング受片(61)・(61)が面当接するに必要な移動変位量が移動部材に生ぜず、したがって右側スプリング受片(61)は、左側スプリング受片(61)と面当接することはない。

3  仮に被告らの主張のように、ロ号物件において、一方の扉の開放時に左右1対のスプリング受片(61)・(61)が面当接して他方の移動部材(3)の移動を阻止するものであるとしても、スプリング受片(61)・(61)が両当接した瞬間に家具等の使用状態において通常加えられる力では扉やタンス本体に歪みを起させることなくして移動部材(3)を移動させることは不能となり、左右の係合片(8)・(8)はそれぞれ左右の移動部材(3)・(3)と係合したままとなって扉は開かないこととなる。すなわち、スプリング受片(61)・(61)が面当接するのは、係合片(8)が移動部材(3)の三角状露出部の斜面に沿って移動しつつ移動部材(3)をスプリング受片(61)側に強く押すからであり、係合片(8)が移動部材(3)を強く押す関係にある限り、係合片(8)も移動部材(3)も弾性体ではないのであるから、係合片(8)は、移動部材(3)のスプリング受片(61)側への移動が不能となった瞬間に移動部材(3)の三角状露出部が邪魔となって移動部材(3)との係合を離脱しえなくなる。

4  鎖錠装置をタンス等の家具に取付けるのは、家具職人の手仕事によるものであるが、一方の扉の開閉に際して左右一対のスプリング受片(61)・(61)が接触はするがそれ以上押込み方向に力が働かないという微妙な接触の仕方をする位置関係に、本体と係合片を手仕事で手早く精密に取付けることは不可能である。そこで、一方の扉の開閉に際し、他方のスプリング受片(61)に対して絶対に押込み方向の力が働かないように本体と係合片とを取付けるためには、両者の取付誤差をも考慮して両者を引き離し加減に取付けなければならず、このような取付け方法では、一方の扉の開閉に際して左右1対のスプリング受片(61)・(61)は面当接しえないこととなる。

3  本件考案の移動部材とスプリングとの接続に関する主張(被告らの主張22(2))について

本件考案における移動部材3・3は、スプリング6によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体Cのケースに移動回動変位自在に取付けられていることが必須の要件であるが、移動部材3・3とスプリング6が直接的に接しているか他の部材を介して間接的に接しているか、また、この両者に介在する他の部材がどのような形状のものかは、本件考案ではなんら限定をしていない。ただ、移動回動変位自在の移動部材3・3と、単に伸縮するスプリング6とが直接的に接することは機械常識からも無理があり、この両者の間に他の部材を介在させるのは当然のことである。本件公報第3図でも右両者間に他の部材を介在せしめている。

4  公知公用技術の主張(被告らの主張4)について

1 公知技術①

公知技術①におけるラッチ9・10は、いずれも長手方向にのみ移動可能な構造となっており、本件考案における「摺動回動変位自在に取付け」られた構造を備えていない。すなわち、本件考案においては、移動部材3・3は三角状でかつ移動のみならず回動も自在であるから、一方の扉を開放しようとすると、その扉側の三角状移動部材3がケース内に没入しながら回動するととめに、その扉の開放につれてスプリング6の左右の三角状移動部材3・3に対する押圧力が増加する。しかし、移動変位中の移動部材3と係合片8との接当角度が著しく減少するため楔効果が顕著に作用することとなって、一方の扉の開放直前においてもその扉を軽く動かしうることとなる。そして、一方の扉の開放直前においてスプリング6の押圧力は最大となるが、三角状移動部材の楔効果によって一方の扉を軽く動かしうることから、スプリング6自身も所要の強力なものを利用しうることとなり、この結果、一方の扉を開放する直前においては、この扉を軽く動かしうるにかかわらず、この時点での他方の三角状移動部材3に対するスプリング6の押圧力を大きなものとすることができることとなり、これを他方の扉の動きを阻止する付加力として有効に作用せしめえて、他方の扉の共開きを確実に阻止しうることとなる。つまり、本件考案によるこのような作用効果は、1対の三角状移動部材間にスプリングを介在せしめることに加えて、この三角状移動部材を移動回動変位自在とすることにより、この両者の協同相乗作用によって生ずるものである。

これに対して、公知技術①においては、移動部材が回動自在でなく、一方の扉の開放によって移動部材が平行移動するのみで回動しないため、本件考案にみられる係合片と移動部材との接当角度の減少による顕著な楔効果を期待できず、一方の扉を開放するのに大きな力を必要とする。そこで扉の開放を軽い力で円滑に行うためには、スプリングを弱くしなければならず、スプリングを弱くすれば他方の扉の共開き阻止力が弱いものとなる。公知技術①は、本件考案が有する扉の開放を軽い力でしかも無理なく行うことができ、しかもその一方の扉の開放時において他方の扉が共開きすることが防止できるという効果を奏しえない。

2 公知技術②

公知技術②におけるボルト13a・16aは、それぞれ細長い胴部を渦巻ばね29の中心孔内に深く挿通されていて、本件考案における「摺動回動変位自在」な構造を備えていないので、公知技術②についても、公知技術①での反論がそのままあてはまる。のみならず、公知技術②は、左右の扉の閉止状態において、左側扉のキャッチと固定用ボルト9aとの係合により左側の扉が完全に錠止めされる構成となっているのに対し、本件考案は、このような別個の錠止装置を備えない簡素な構成部材からなっておりながら、「夫々の係合片8・8を取付けた左右の扉はその順序を問わず、左右何れからでも開放出来、しかもその一方の扉の開放時においては他方の扉が共開きるる事が防止され」るという作用効果を奏しているのであって、両者は構成、作用効果において異なる。

3 公知技術③

ドリームキャッチにおける移動部材2・2'は、肉薄の円板形状でその直径がほぼ本体Cの横幅一杯の大きさであるため、係合片10・10'との係合を離脱するに際しても、本体Cの長手方向にのみ移動可能な構造となっており、本件考案のように摺動回動変位自在の構造を備えない。ドリームキャッチは、前記1の本件考案の特徴的作用効果を奏せず、本件考案とはその構成を異にする。しかも、ドリームキャッチは、左右の扉の閉止状態において、係合片10'と連動するストッパー部材8の係合片当接部9が対向する係合片10の側縁部と当接しているため、右側の扉が完全に錠止めされる構成となっている。したがって、公知技術③についても、公知技術②の錠止めについての反論がそのままあてはまるから、この点においても、両者は構成、作用効果を異にする。

5  三角状移動部材の意味(被告らの主張52(2)、3(2)に対するもの)

「三角状」移動部材3・3というのは、明細書中にも、係合片8・8に関して「三角状の凹陥部9」との記載があり、これに引き続いて「今第3図の状態では扉2・2が閉塞されて係合片8・8が三角状移動部材3・3に係合している状態が示されている。此の様な状態では前記2つの移動部材3・3はスプリング6によって互いに離反する方向に力を受けている……係止片が前記移動部材に係合する際に、前記移動部材が係止片の当圧力によって容易に回動変位し、此れにより両者の係合が軽い力でしかも無理なく行う事ができる。」と記載されていることからも理解できるが、係合片8・8の凹陥部に係合して移動部材3・3が回動変位する機能を十分果すことができるように、係合片8・8と係合する部分がほぼ三角状であることが求められているのであって、本体Cのケース内に隠れている部分までが三角の一辺であることまで特定しているものではない。しかも、ロ号物件における移動部材(3)・(3)の基底部側に被告ら指摘の薄い台形状の舌辺(3a)・(3a)が一体的に連設されているのは、スプリング受片(61)・(61)と本体Cのケース内面との間にこの舌片(3a)・(3a)を介在させることにより、両者間の間隙をなくしてスプリング受片(61)・(61)の移動を円滑ならしめるためのものであり、本件考案とは関係のない附加的構造である。

6  被告ら主張の面当接の場合も被告製品が本件考案の技術的範囲に属することについて

1 ロ号物件

仮に、一方の扉の開閉に際し左右1対のスプリング受片(61)・(61)が面当接することがあるとしても、ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属することに変わりがない。

(1)  まず、一方の扉の開閉に際してスプリング受片(61)・(61)同志が面当接するがそれ以上押込み方向に力が働かないという被告ら主張の場合、ロ号物件は、「移動部材3・3はその一部を露出させた状態で、かつスプリング6によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体Cのケースに摺動回動変位自在に取付けられている。」との本件考案の構成要件(3)を充足することに変わりがなく、したがって移動部材(3)・(3)は終始圧縮されたスプリング(6)の押圧力を受けている状態にあるから、本件考案の有する作用効果をすべて備えている。しかも、被告らの主張するスプリング受片(61)・(61)同志が面当接する時点、すなわち係合片(8)が移動部材(3)から離脱する瞬間の移動部材(3)が最大限に押込まれた時点では、スプリング(6)が最も圧縮された状態にあるため、他方の移動部材(3)が最大の圧縮力を受けている状態にある。そして、一方のスプリング受片(61)は他方のスプリング受片(61)と面当接しているが、それ以上押込み方向に力は働かない状態にあるというのであるから、他方の移動部材(3)は、スプリング受片(61)・(61)同志の面当接によっては全く力作用を受けておらず、専ら最も圧縮された状態にあるスプリング(6)の圧縮力を受けているのであるから、ロ号物件は本件考案の作用効果をそのまま奏しているわけである。

なお、右時点に至るまでの間においても、移動部材の回動に起因していくスプリングの押圧力により、他方の扉の開放が阻止されていることはいうまでもない。

(2)  次に、一方の扉の開放に際してスプリング受片(61)・(61)同志が面当接し、更に押込み方向に力が働く場合には、一般に家具を使用する際に用いられる通常の力をもっては扉を開閉することができず、あるいは扉に異常な力を加え家具本体に歪みを生ぜしめることによってようやく扉の開閉が可能となる。このような仮定の場合においても、移動部材(3)・(3)は圧縮されているスプリング(6)の押圧力を終始受けている状態にあり、しかも他方の移動部材(3)は、左右1対のスプリング受片(61)・(61)が面当接する時点においても、スプリング(6)が最も圧縮された状態にあるため、引きつづき最大の圧縮力を受けている。ただ右時点以降においては、一方のスプリング受片(61)が他方のスプリング受片(61)に面当接することによって、一方の移動部材(3)の移動が阻止されることとなるから、係合片(8)は一方の移動部材(3)との係合を離脱しえず扉を開閉することが不能となるか、あるいは異常な力による家具本体の歪みによって扉をこじ開けるほかないこととなる。

しかし、この状態においても、他方のスプリング受片(61)は、スプリング(6)による最大の押圧力を受けることによって、本件考案における共開き防止の作用効果をそのまま奏しており、ただ他方の扉の共開き防止の見地からは全く無用の力が付加されているにすぎない。

2 仮締め本締めの主張(被告らの主張61(2))

被告製品及び本件考案はいずれも仮締装置に該当するものであり、また被告らが主張するロ号物件の左右扉の同時開放阻止機能なるものも、通常の使用状態における家具の扉に関する限り、無用のものである。

3 イ号物件

イ号物件の家具等への一般的取付状態において、一方の扉の開閉に際して、一方の薄い台形状の舌片(3a)が他方の薄い台形状の舌片(3a)に当接することはなく、また当接すると仮定しても、イ号物件が本件考案の構成要件をすべて充足し、本件考案と同一の作用効果を奏することは、ロ号物件におけると同様である。

4 結局、被告製品は、本件考案と異なる作用効果を有するとしても、それは本件考案に附加した技術事項による附加的なものにすぎず、本件考案を利用していることが明らかである。

第6被告らの再反論

禁反言の主張(原告の反論21)について

原告の指摘する被告小林製作所の異議答弁は、イ号物件の実用新案出願に対する原告の異議に関し、考案についてされたものである。そして、いわゆる特許訴訟における禁反言の原則は、実用新案権者が出願手続において主張したことと異なる主張を侵害訴訟ですることを禁ずるものであるところ、被告小林製作所の異議答弁は、右のとおり考案に関する主張であるのに対し、被告らの本件訴訟における舌片、受片の当接の主張は、イ号物件・ロ号物件という具体的製品に関するものであるから、両主張に相違があるとしても、右の原則に悖るわけではない。

第7証拠

1  原告

1 甲第1号証の1・2、第2、第3号証、第4号証の1ないし10(イ号物件を昭和53年7月12日村上信善が撮影した写真)、第5、第6号証、第7号証の1・2、第8ないし第11号証、第12号証の1・2、第13ないし第16号証。検甲第1号証の1・2(イ号物件である「ロックキャッチ」及びその外箱)、第2号証(ロ号物件を模型の観音開き扉に正常な取付状態で取付けたもの)、第3号証(英国特許第473852号公報の第6図の9a部分を除いた部分の試作品)。

2  乙第1ないし第3号証、第5、第6号証、第10ないし第19号証の成立はいずれも認め、その余の乙号各証の成立は不知。検乙号証については、第1、第2号証、第4号証、第6、第7号証が被告ら主張のものであることは認め、第3号証がロ号物件を取付けた模型みあることは認めるが、その取付状態が被告ら主張のとおりであるかは不知、第5号証がロ号物件を取付けた模型であることは認めるが、その取付状態が被告らの主張のとおりであるかは不知、第8号証が被告ら主張のものであることは否認する、第9号証が被告ら主張のものであることは不知、第10号証についての被告らの主張は争う。

2  被告ら

1 乙第1ないし第6号証、第7号証の1ないし3、第8、第9号証の各1・2、第10ないし第19号証。検乙第1号証(ロ号物件の本体(C))、第2号証(ロ号物件の組立しない状態のもの)、第3号証(ロ号物件を別紙被告図面第3図のとおり取付けた模型)、第4号証(本件考案の実施品を模型の観音開き扉に取付けたもの)、第5号証(ロ号物件を模型の観音開き扉に取付けたもの)、第6号証(検乙第4、第5号証に取付けた鍵)、第7号証(イ号物件、但し、本体Cの上面を長方形状に切断したもの)、第8号証(ロ号物件を別紙ロ号図面及びその説明書第3図のとおり模型の観音開き扉に取付けたもの)、第9号証(本実用新案出願前に公知であった三角状補助部材と同一構造のもの)、第10、第11号証(いずれも英国特許第473852号公報の第6図のラッチ部分の試作品)、第12号証(模型)、第13号証(本件考案の実施品)。

2 証人梶田修三

3  甲第1号証の1・2、第2号証、第5号証、第7号証の1・2、第12号証の1・2、第14ないし第16号証の成立は認め、第4号証の1ないし10がイ号物件を撮影した写真であることは認め、撮影者、撮影日は不知、その余の甲号各証の成立は不知。検甲号証については、第1号証の1・2がイ号物件であることは認め、第2号証について模型に取付けているのがロ号物件であることは認めるが、正常に取付けてあることは争う、第3号証が原告主張のものであることは否認する。

理由

1  請求原因1の事実(原告が実用新案権を有していること)は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第14号証(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は、請求原因21のとおり分説するのが相当であり、また、本件考案は、同22のとおりの作用効果を奏するものであることが認められる。

2  被告小林製作所が「ロックキャッチ」の標章を用いて、観音開き扉の鎖錠装置の被告製品(イ号物件、ロ号物件)を業として製造販売し、被告木村新が被告小林製作所から買入れた被告製品を業として販売してきたことは当事者間に争いがない(ただし、被告らが現にイ号物件を製造販売しているかについて、イ号物件、ロ号物件の特定について争いがある点を除く)。

3  そこで、以下被告製品が本件考案の技術的範囲に属するかについて検討するが、被告らは、実用新案登録は無効なものであり、また全部公知による限定解釈をなすべきである旨主張するので、まずこの点についてみることとする。

1 実用新案法37条1項3号該当の主張について

およそ、実用新案権の付与、無効等の処分は特許庁の専権に属するところであって、いったん特許庁がその専権に基づきある考案に実用新案権の付与した以上、それが実用新案法所定の無効審判手続(及びこれに続く行政訴訟)で無効にすべき旨の審議がなされその審決が確定しない限り、侵害訴訟裁判所においてみだりにこれを無効と判断し、無効を前提として訴えを断ずることは許されないというべきである。

のみならず、被告らの主張するところは、要するに、本件考案の明細書に示す一実施例図を採り上げて、一方の扉の開放時にスプリングがアーチ状に湾曲してその押圧力が減殺されるので、他方の扉の仮締め効果を生じなくなる構造が示され、作用効果の不奏効をいうものであるが、ある考案が所期の作用効果を奏するかどうかは、一実施例に拘泥することなく、明細書全体の記載に基づき判断すべきであり、しかも、考案の詳細な説明には、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施ができる程度に、その考案の目的、構成及び効果を記載することをもって足り、それ以上に詳細な寸法・素材等を明示する設計図のごときものが要請されるものではないのであって、このことは実用新案法5条3項の規定に照らし明らかであり、本件考案が請求原因22のとおりの作用効果を奏することは前認定のとおりである。いずれにしても、被告らの前記主張は採用できない。

2 全部公知による限定解釈の主張について

考案が刊行物に記載されて公知であるとは、その技術的思想が公知刊行物に記載されていることを意味する。けだし、考案の同一性の判断は技術的思想の同一性を判断することにより行うべきだからである。この観点のもとに被告ら指摘の資料を検討するも、本件考案が公知であるとすることはできない。その理由は次のとおりである。

成立に争いのない乙第1号証によると、米国特許第1013553号明細書(1912年1月2日特許)(公知技術①)に示す観音開きの鎖錠装置は、ラッチ9・10(本件考案の三角状移動部材に対応)がスプリング13により互いに離反する方向に力を受けている点において、本件考案と同じであるが、かんぬき棒11がラッチ9・10の間に配置されたスプリング13の中に嵌挿されている(かんぬき棒11はラッチ9に固着されている)点において相違し、右構成のためにラッチ9・10が回動自在でなく、本件考案の前判示構成要件(3)を欠除している。なお、かんぬき棒11を短くして扉の閉鎖状態で、かんぬき棒11が掛け金17(係合片に対応)のくぼみ18に入らない状態にする場合も示されているが、かんぬき棒11を取除くことを示唆する記載はないから、公知技術①には摺動回動自在にラッチを取付けるとの技術思想に基づいた観音開き扉の鎖錠装置は示されていないものと解される。したがって、右明細書をもって本件考案が公知とすることはできない。

成立に争いのない乙第2号証によると、英国特許第473852号明細書(昭和13年2月14日特許庁陳列館受入)(公知技術②)のうち、被告らの指摘する第6図に示す観音開き扉の鎖錠装置は、キャッチボルト13a・16a(本件考案の三角状移動部材に対応)がスプリング29により互いに離反する方向に力を受けている点において、本件考案と同じであるが、ロックボルト9a(頭とかんぬき棒とから構成され、かんぬき棒はスプリングの中に嵌挿されている)が併用されている点で相違する。右構成のために、ロックボルト9aのかんぬき棒用の孔が設けられているキャッチ(係合片に対応)を取付けた扉は、他方の扉より先に閉めて後から開けるように定まっていて、本件考案と作用効果を異にする。もっとも、ロックボルト9aを除いた鎖錠装置は、構成上本件考案の構成要件をすべて満足している、ということができる。しかし、右明細書には、扉の開閉順序が存在することを前提とした鎖錠装置のみが示されており(第2図、第8図、第14図に明示されているように、左右の扉が接触面において互いに組合わさるようにそれらの端部が工作されている)本件考案の技術思想である、左右いずれの扉からでもその順序を問わず開放できる鎖錠装置、に関しては、示唆するところがない。公知技術②は、左右の開閉順序が定まった観音開き扉の一方の扉(先に開ける扉)を開けるときに、他方の扉(後に開ける扉)が共開きしないために、ロックボルト9aを採用したものと推認しうる。したがって、公知技術②には、本件考案のごとく両扉を係止する機構のみによって仮締めを果す、との技術思想が存在しないものというべく、右明細書によっても本件考案を公知である、とすることはできない。

成立に争いのない乙第3号証によると、雑誌「室内」昭和42年11月号に掲載のドリームキャッチなる観音開き扉の鎖錠措置は、1対の移動部材がスプリングにより互いに離反する方向に力を受けている点において、本件考案と同じであるが、移動部材の形状が円板状である点、長板状のストッパー(一方の移動部材と移動する)を具備している点において相違する。そして、ストッパーを具備していることにより、公知技術②と同じく扉の開閉に順序があり、本件考案と作用効果を異にする。仮にストッパーを除去すると、移動部材の形状の点はともかく、本件考案の他の構成要件を満足するが、ストッパーの一端は一方の移動部材とともに移動するように形成されているから、ストッパーの作動は一方の移動部材の作動と一体不可分の関係にあって、この一方の移動部材によって係合される係合片を設けた扉は、他方の扉より先にあけ、後にしめるようになっている。また、ドリームキャッチには、左右いずれからでも順序を問わず開放する、との本件考案の技術思想はなく、したがって、ドリームキャッチの構成からストッパーを除いた鎖錠装置を考えること自体不合理であるし、ストッパーを採用したことにより、本件考案における仮締めの技術思想が存在していないと考えられる。ドリームキャッチも本件考案を公知とすることはできない。

右のとおりであるから、本件考案が全部公知であるとの被告らの主張も採用できない。

4  そこで、ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについてみる。

1 まず、ロ号物件の構成をみるに、ロ号物件の本体(C)であることについて争いのない検乙第1号証、ロ号物件の組立しない状態のものであることについて争いのない検乙第2号証によると、ロ号物件は、別紙ロ号図面及びその説明書記載のとおりであり、次の構成を有するものと認められる(ただし、(1)'、(4)'については当事者間に争いがない)。

観音開き扉の鎖錠装置であること、

(1)' 固定壁側(1)に取付けられる本体(C)と、扉側(2)・(2)に取付けられる一対の係合片(8)・(8)とから成ること。

(2)' 本体(C)には、外側面が三角状イで、内側面が前後1対の緩い傾斜面ロ・ロからなる「く」の字状に形成された移動部材(3)・(3)を有しており、移動部材(3)・(3)には、その基底部側に基底部を底辺とする薄い台形状の舌片(3a)・(3a)が一体的に連設されていること。

(3)'(1) 移動部材(3)・(3)は、その一部を外方に露出させた状態で、左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介したスプリング(6)によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体(C)のケース(5)に摺動回動変位自在に取付けられていること。

(2) 右取付け状態において、スプリング受片(61)・(61)のスプリング側の面が舌片(3a)・(3a)の先端面よりもやや本体(C)の中央寄りに位置するようにスプリング受片(61)・(61)、舌片(3a)・(3a)の寸法が設定されていること。

(4)' 1対の係合片(8)・(8)は、それぞれ移動部材(3)・(3)に係合する凹陥部を備えていること。

2 そこで、ロ号物件の構成を本件考案の構成要件と対比してみると、いずれも観音開き扉の鎖錠装置であって、(1)'、(4)'の構成がそれぞれ相対応する(1)、(4)の構成要件を充足することは明らかである。

そして、(2)'、(3)'の構成と(2)、(3)の構成要件を対比してみた場合、本体には1対の移動部材が一部を露出させた状態で本体のケースに摺動回動変位自在に取付けられていること、本体内にスプリングが組込まれていることは同一であるが、(2)の構成要件では、移動部材を「三角状」とするのに対し、(2)'の構成では、外側面を三角状に内側面を「く」の字状とし舌片を一体的に連設した移動部材であること、(3)の構成要件では、スプリングによって一対の移動部材が互いに離反する方向に力を受けた状態で取付ける、としているのに対し、(3)'の構成では、1対のスプリング受片を介したスプリングによって1対の移動部材が互いに離反する方向に力を受けた状態で取付けられていることが相違している。そして、(2)'の構成が(2)の構成要件を充足することは被告らにおいて争わないところであるので、(3)'の構成が(3)の構成要件を充足するか否かがロ号物件についての争点となる。

3 (3)'の構成が(3)の構成要件を充足するか否かは、作用効果の検討なくしては決しえないところ、本件考案の主要な作用効果が、左右の扉はその順序を問わず左右いずれからでも開放できること(開閉の順序なし)、一方の扉の開放時に他方の扉が共開きすることが防止されること(共開き防止)にあることは前判示のとおりであり、ロ号物件も、右と同様の作用効果を奏することは当事者間に争いがない。

そして、ロ号物件の右作用効果について、原告は、本件考案と同じくスプリング(6)の押圧力によるものであるとするのに対し、被告らは、スプリング受片(61)・(61)の面当接によるものである旨主張している。

ところで、スプリング受片(61)・(61)の面当接の能否について次のとおり争いがある。すなわち、被告らは、一方の扉の開放時に、その側の移動部材(3)に係合する係合片(8)を同移動部材から離脱させる際、同移動部材がケース(5)内に没入してスプリング受片(61)を反対方向に移動せしめ、係合片(8)が同移動部材から離脱する瞬間に、同受片(61)が他方のスプリング受片(61)に面当接し、これにより他方の扉を確実にロックすると主張するのに対し、原告は、係合片(8)と移動部材(3)との係合位置が同移動部材の先端に比較的近くなるように設計製作されているために、スプリング受片(61)・(61)が面当接するに必要な移動変位量が生ぜず両者が面当接することはなく、仮に面当接するとすれば、その瞬間から移動部材(3)の移動が不能となり係合片(8)は移動部材(3)と係合したままとなって扉は開放不能となる、と反論しているので、まずこの点について検討する。

(1)  模型に取付けられているロ号物件であることについて争いのない検甲第2号証のロ号物件(本体(C)のカバーを切欠いて、内部部品の動作を視認できるようにしてあるもの)に基づきスプリング受片(61)・(61)同志が面当接しうるか否かをみるに、一方の移動部材(3)を押して反対方向に移動させると、外面に露出した三角状イの部分が回動する場合であると否とを問わず、同移動部材の移動につれてスプリング受片(61)も移動し、三角状イの部分が本体(C)に没入する以前に他方のスプリング受片(61)に面当接することが認められる。次に、前示検甲第2号証のロ号物件に基づき、左右の移動部材(3)・(3)を同時に押して移動させると、その移動にそって、それぞれの側のスプリング受片(61)・(61)は、本体(C)の中央方向に接近し、しまいに移動部材(3)・(3)の三角状イの相当部分をケース(5)の外面に露出させたまま、本体(C)の中央で面当接することが認められる。

右事実によれば、ロ号物件のスプリング受片(61)・(61)同志は、移動部材(3)・(3)の一方又は双方のケース(5)内方向への移動により面当接することが明らかであり、面当接したときには、一方の移動部材(3)、一方のスプリング受片(61)、他方のスプリング受片(61)、他方の移動部材(3)が順次面当接しているのであって、これらは一体となって剛体化しているということができる。

(2)  ところで、実際に扉を開けるときは、移動部材(3)・(3)にはそれぞれ扉に取付けられた係合片(8)・(8)が係合しているのであるから、ロ号物件の構造上、スプリング受片(61)・(61)同志が面当接した瞬間に移動部材(3)のケース(5)内への移動が不能となるのではないかと考えられ、原告は、この点を指摘して、面当接するとすればロ号物件は観音開き扉の鎖錠装置として実施不能のものとなり、結局面当接しないように取付けざるをえない旨主張するので、以下実際に扉を開けるときのロ号物件の作用をみることとする。

ロ号物件を取付けた模型であることにつき争いのない検乙第5号証によると、いま左右の扉を閉じた状態から左右いずれか一方の扉を引くと、係合片(8)は移動部材(3)をケース(5)内に移動させつつ同移動部材から離脱して扉が開くが、一方の係合片(8)が移動部材(3)から離脱する直前の、同移動部材が最もケース(5)内に没入した状態において、他方の扉を引いても開放方向には動かしえないこと、左右の扉を閉じた状態から左右の扉を同時に開放方向に引くと、左右の扉は僅かにその方向に移動し、それにともない係合片(8)・(8)がそれぞれ移動部材(3)・(3)を僅かにケース(5)内に移動させるものの、それ以上は通常の力では扉を動かしえないこと、いずれか一方の扉をあらかじめ開けておき、閉じた扉を開放方向に引き、その扉の係合片(8)が移動部材(3)から離脱する直前の、同移動部材がケース(5)内に最も没入した状態において、あらかじめ開けた側の移動部材(3)をケース(5)内に移動させることはできないことが認められる。

右事実によれば、前示検乙第5号証の観音開き扉の模型においては、開けようとする扉側の移動部材(3)が最もケース(5)内に没入した時点で、スプリング受片(61)・(61)同志は面当接するが、それでも開放方向に引くと開けることができるのである。

(3)  もっとも、前示検甲第2号証、検乙第5号証によると、前者は、双方の扉を閉じた状態から、一方の扉を開放方向に引くと、係合片(8)が移動部材(3)から離脱する瞬間においても、スプリング受片(61)・(61)同志は面当接することなく扉が開けられること、左右の扉を同時に開放方向に引いた場合、スプリング受片(61)・(61)同志は面当接するものの、それまでの扉の開放方向の移動量が検乙第5号証の場合に比べて大きい上に、力一杯引くと両扉の同時開放が可能であることが認められる。

そこで右両検号証を対比検討すると、検甲第2号証の係合片(8)・(8)は、検乙第5号証の係合片(8)・(8)に比べ、本体(C)よりみてやや外方に取付けられているところから、検甲第2号証において一方の扉の開放時にスプリング受片(61)・(61)同志が面当接しないのは、係合片(8)・(8)がやや外方に取付けられているため、係合片(8)が移動部材(3)から離脱する際に、同移動部材のケース(5)内方向への移動量が少ないことに起因するものと解せられる。

(4)  原告は、ロ号物件のごとき鎖錠装置のタンスへの取付は職人の手作業によるものであるが、一方の扉の開放時、係合片(8)が移動部材(3)を本体(C)内方に最大限に移動させる瞬間にスプリング受片(61)・(61)同志が面当接し、それ以上移動部材(3)に対する本体(C)方向への力が加わらない位置に係合片(8)・(8)と本体(C)とを取付ける手作業を手早く行うことは不可能であるから、勢い若干外側にずらした位置に係合片(8)・(8)を取付けることとなって、一方の扉の開放時にスプリング受片(61)・(61)同志は面当接しえないと主張する。

ところで、前認定((1)ないし(3))の事実によれば、一方の扉の開放時にスプリング受片(61)・(61)同志が面当接したときには、移動部材(3)・(3)、スプリング受片(61)・(61)は一体となって剛体化しているのであるから、その扉を更に開放方向に引いても、それ以上一方の移動部材(3)に対するケース(5)内方への力が働かないように、すなわち、一方の係合片(8)が移動部材(3)を離れる直前の、移動部材(3)をケース(5)内方に最大限に没入させる瞬間にスプリング受片(61)・(61)同志が面当接するように、係合片(8)・(8)、本体(C)の位置決めをして取付けがなされねばならない(以下「適正位置」という)。そして、係合片(8)・(8)と本体(C)の移動部材(3)・(3)との係合量を少しずつ減ずれば、つまり本体(C)から、係合片(8)・(8)を適正位置よりも少しずつ離していくと、離し方の少ない当初は、一方の扉を開放するだけではスプリング受片同志が面当接することはないけれども、一方の扉を開放方向に引き始めてから移動部材(3)が最大限ケース(5)に没入するまでの間、他方の扉を開放方向に引くことにより面当接が得られる。しかし、係合片(8)・(8)と本体(C)との間隔が増すと、検甲第2号証のごとく開放側の扉の移動部材(3)が最大限ケース(5)に没入する時点で他方の扉を引いた場合に限り、スプリング受片同志の面当接が得られるのを最後に、それ以上係合片(8)と本体(C)とを引き離すと、他方の扉を引いても面当接しなくなることが明らかである。

これと反対に、係合片(8)・(8)の取付け位置を、適正位置よりも本体(C)との間隔を縮めて取付けた場合、その程度が極く僅かであれば、一方の扉の開放時にスプリング受片(61)・(61)同志が面当接した後、一方の係合片(8)を移動部材(3)から離脱させるために同移動部材にケース(5)内方への力を加えた場合、他方の係合片(8)が弾性変形することにより、極く僅かに一方の移動部材(3)をケース(5)内方へ移動させ、かつ一方の係合片(8)が弾性変形することにより、同係合片を移動部材(3)から離脱させることができるものと認められる。そして、右の程度を超えて取付け位置を縮めると、スプリング受片(61)・(61)同志の面当接による移動部材(3)・(3)、スプリング受片(61)・(61)の剛体化のために、一方の扉のみの開放も不能となる。

以上認定説示したところによれば、スプリング受片(61)・(61)同志が面当接したうえで一方の扉を開放するに必要な係合片(8)・(8)と本体(C)の取付け位置は、適正位置を基準にして、係合片(8)・(8)と本体(C)の間隔を縮める方向には僅かな許容限度を有するのみであるが、その間隔を拡げる方向には可なりの許容限度のあることが認められる。

右のとおりであるから、原告の前記主張は理由がなく採用の限りでない。

次に、前示検甲第2号証、検乙第5号証に基づき、スプリング受片同志が面当接するように取付けられたロ号物件の作用効果について考える。

(1) 適正位置に取付けた場合

(1) いま左右の扉を閉じた状態から左右いずれか一方の扉を引くと、一方の係合片(8)は一方の移動部材(3)に対しケース(5)内方への力を及ぼし、同移動部材はケース(5)内方に移動し、それにつれて一方のスプリング受片(61)も反対方向にスプリング(6)を押圧しつつ移動するが、一方の係合片(8)が一方の移動部材(3)から離脱する直前、すなわちその移動部材が本体ケース(5)内に最も没入した瞬間に、一方のスプリング受片(61)は他方のスプリング受片(61)と面当接し、スプリング(6)にはそれ以上の圧縮力は加わらないで、他方の移動部材(3)のケース(5)内方への移動を阻止することとなり、一方の扉の開放動作時に他方の扉が開放するのを確実にロックすることとなる(以下共開き防止機能という)。

(2) また、左右の扉を閉止した状態から左右の扉を同時に開放方向に引くと、係合片(8)・(8)がそれぞれ移動部材(3)・(3)をケース内方向に移動させるけれども、移動部材(3)・(3)の移動につれてスプリング受片(61)・(61)も移動し、移動部材(3)・(3)がケース内に完全に没入して係合片(8)・(8)が移動部材(3)・(3)から離脱する前に、スプリング受片(61)・(61)がケース(5)内中央部で面当接して移動部材(3)・(3)がそれ以上ケース(5)内方向に移動するのを阻止するために、係合片(8)・(8)が移動部材(3)・(3)から離脱することができず、左右の扉同時開放が阻止されることとなる(以下同時開放防止機能という)。

(2) 係合片(8)・(8)を適正位置よりも僅かに本体(C)に接近して取付けた場合

(1) いま左右の扉を閉じた状態から左右いずれか一方の扉を引くと、一方の係合片(8)は一方の移動部材(3)に対しケース(5)内方への力を及ぼし、同移動部材はケース(5)内方に移動し、それにつれて一方のスプリング受片(61)もケース(5)内方にスプリング(6)を押圧しつつ移動し、一方=係合片(8)が一方の移動部材(3)から離脱する僅か前、同移動部材が本体ケース(5)内に最も没入する僅か前に、一方のスプリング受片(61)は他方のスプリング受片(61)と面当接し、スプリング(6)にはそれ以上の圧縮力は加わらないで、他方の移動部材(3)のケース(5)内方への移動を阻止することとなり、一方の扉の開放動作時に他方の扉が開放するのを確実にロックすることとなる。面当接の後、一方の扉を開放方向に引くと、一方の係合片(8)が更に一方の移動部材(3)に対しケース(5)内方への押圧力を及ぼし、その押圧力は一方の移動部材(3)、一方のスプリング受片(61)、他方のスプリング受片(61)、他方の移動部材(3)、他方の係合片(8)に順次伝達して、他方の係合片(8)を僅かに弾性変形せしめ、かつ一方の係合片(8)も僅かに弾性変形することによって一方の移動部材(3)から離脱し、一方の扉が開放される。

(2) (1)(2)に同じ。

(3) 係合片(8)・(8)を適正位置よりもやや外方に、許容限度の範囲内で取付けた場合

(1) いま左右の扉を閉じた状態から左右いずれか一方の扉を引くと、一方の係合片(8)は一方の移動部材(3)に対しケース(5)内方への力を及ぼし、その移動部材はケース(5)内方に移動し、それにつれて一方のスプリング受片(61)もケース(5)内方にスプリング(6)を押圧しつつ移動するけれども、一方のスプリング受片(61)は他方のスプリング受片(61)と面当接することなく、一方の係合片(8)が一方の移動部材(3)を最大限に没入させて、その移動部材から離脱して一方の扉が開放される。

なお、一方の扉を開放方向に引き始めてから一方の移動部材(3)が最大限ケース(5)に没入するまでの間、他方の扉に開放方向への力が加わると、他方の係合片(8)が他方の移動部材(3)をケース(5)内方に移動させ、それにつれて他方のスプリング受片(61)も移動して、既に移動しつつあった一方のスプリング受片(61)と面当接するために、他方の扉が共開きするのが阻止される。

(2) (1)(2)に同じ。

4 以上検討したところによれば、ロ号物件は、本件考案とは異なる構成、技術思想により、前記作用効果を奏するものであると認められる。すなわち、

(1) 係合片と本体が適正位置に取付けられた場合は、一方の扉の開放開始からスプリング受片同志が面当接するまでの間は、他方の扉は、一方の移動部材の反対方向への移動によりスプリングの押圧力を受けた他方の移動部材によりスプリングの押圧力を受けた他方の移動部材により、仮締めされており、ロ号物件のこの作用効果に着目する限り、本件考案の作用効果と同一であるけれども、スプリング受片同志が面当接して後は各移動部材、スプリング受片が剛体化して一方の係合片と他方の係合片との間でかんぬきの役割をすることによって反対側の扉の共開き防止機能を果たしており、面当接するまでのスプリングの押圧力による仮締め作用が働く段階においても、他方の扉に開放方向への不測の力が加わった場合に面当接によって共開き防止機能が得られていることが明らかである。

このように、一方の扉の開放時に反対方向へのスプリングの押圧力を利用して他方の扉を仮締めし共開き防止機能を達成する本件考案と、面当接により各部材が剛体化することを利用して他方の扉をロックすることにより共開き防止機能を達成するロ号物件とは、作用効果の面において本質的に相違するといわなければならない。

(2) 係合片を適正位置よりも僅かに本件(C)に接近して取付けた場合におけるロ号物件の面当接による共開き防止機能の作用効果は、適正位置に取付けた場合と同様である。

(3) 係合片を適正位置よりも、許容限度の範囲内でやや外方に取付けた場合は、一方の扉の開放時には、最大限に移動部材が没入する時点においてもスプリング受片同志が面当接することはなく、一方の移動部材の反対方向への移動によるスプリングの押圧力を利用して他方の移動部材を他方の係合片に係合して仮締めの効果を得ているものの、この場合とても他方の扉に開放方向への不測の力が加わったときには、他方の移動部材がケース内方に移動し、結局スプリング受片同志が面当接することにより他方の扉をロックして共開き防止機能を達成しており、スプリングの押圧力を利用した仮締めによって共開き防止機能を達成している本件考案の作用効果と異なることは、前(1)で判示したところと同様である。

以上説示のとおり、本件考案が構成要件(3)を採ることによる作用効果と、ロ号物件が構成(3)'(1)(2)を採ることによる作用効果とが異なる以上、ロ号物件の構成(3)'(1)(2)は本件考案の構成要件(3)を充足しない、と認めるのが相当である。

したがって、ロ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。

5 次いで、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1 イ号物件の構成をみるに、いずれもイ号物件の写真であることにつき争いのない甲第4号証の1ないし10、イ号物件であることにつき争いのない検甲第1号証の1、イ号物件であって本体Cの上面を長方形状に切断したものであることにつき争いのない検乙第7号証によれば、イ号物件は、別紙イ号図面及びその説明書記載のとおりであり、次の構成を有するものと認められる。

観音開き扉の鎖錠装置であること、

(1)' 固定壁側(1)に取付けられる本体(C)と、扉側(2)・(2)に取付けられる1対の係合片(8)・(8)とから成ること。

(2)' 本体(C)には、外側面が三角状イで、内側面が前後1対の緩い傾斜面ロ・ロからなる「く」の字状に形成された移動部材(3)・(3)を有しており、移動部材(3)・(3)には、その基底部側に基底部を底辺とする薄い台形状の舌片(3)a・(3a)が一体的に連設されていること。

(3)"(1) 移動部材(3)・(3)は、その一部を外方に露出させた状態で、左右1対のスプリング受片(61)・(61)を介したスプリング(6)によって互いに離反する方向に力を受けた状態で、本体(C)のケース(5)に摺動回動変位自在に取付けられていること。

(2) このような取付け状態において、舌片(3a)・(3a)の先端面がスプリング受片(61)・(61)のスプリング側の面よりもやや本体(C)の中央寄りに位置するように舌片(3a)・(3a)、スプリング受片(61)・(61)の寸法が設定されていること。

(4)" 1対の係合片(8)・(8)は、それぞれ移動部材(3)・(3)に係合する凹陥部を備えていること。

2 イ号物件の構成を本件考案の構成要件と対比すると、いずれも観音開き扉の鎖錠装置であって、(1)"、(4)"の構成がそれぞれ相対応する(1)、(4)の構成要件を充足することが明らかであること、そして、(2)"、(3)"の構成と(2)、(3)の構成要件を対比してみた場合、本体には1対の移動部材が一部を露出させた状態で本体ケースに摺動回動変位自在に取付けられ、本体内にスプリングが組込まれていることが同一であるが、(2)の構成要件では、移動部材を「三角状」とするのに対し、(2)"の構成では、外側面を三角状に内側面を「く」の字状とし舌片を一体的に連設した移動部材であり、(3)の構成要件では、スプリングによって一対の移動部材が互いに離反する方向に力を受けた状態で取付ける、としているのに対し、(3)"の構成では、1対のスプリング受片を介したスプリングによって1対の移動部材が互いに離反する方向に力を受けた状態で取付けられていることが相違していることが認められる。そうすると、(2)"、(3)"の構成が(2)、(3)の構成要件を充足するか否かがイ号物件における争点となる。

3 そして、本件考案の主要な作用効果が、開閉の順序がなく、共開き防止にあることは前判示のとおりであり、イ号物件も右と同様の作用効果を奏することは当事者間に争いがなく、右作用効果が本件考案と同じくスプリング(6)の押圧力によるものであるか、舌片(3a)・(3a)の先端部当接によるものであるか、についてみるに、前示甲第4号証の1ないし10、検甲第1号証の1、検乙第7号証によれば、イ号物件では、一方の扉の開放時に、一方の移動部材(3)に連設された台形状の舌片(3a)の先端部が、他方の移動部材(3)の舌片(3a)の先端部に当接することにより、他方の扉をロックするものであり、かつ、左右の扉を同時に開放した場合には、左右の移動部材(3)・(3)の舌片(3)・(3a)の各先端部がケース(5)内中央で当接することにより、左右の扉の同時開放を阻止するものであることが認められる。

そうすると、スプリング受片(61)・(61)を舌片(3a)・(3a)と置き換えるほかは、ロ号物件に関する前認定説示が、そのままイ号物件にもあてはまるということができる。

そして、イ号物件が右の構成を採ることによる作用効果と本件考案が右構成要件を採ることによる作用効果との対比検討を要するところ、前説示のとおり、イ号物件においては、一方の扉の開放時に一方の移動部材(3)に連設された台形状の舌片(3a)の先端部が、他方の移動部材(3)の舌片(3a)の先端部に当接することにより、他方の扉をロックして他方の扉の共開き防止機能を達成するものであり、イ号物件における移動部材(3)・(3)の舌片(3a)・(3a)は、あたかもロ号物件におけるスプリング受片(61)・(61)の機能を営んでいるものと解することができるから、ロ号物件に関して説示したのと同様の理由により、イ号物件の構成(2)"(3)"(1)(2)は本件考案の構成要件(2)(3)を充足しないというべきである。

したがって、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。

6 原告は、被告らが面当接しないことを認めていた旨主張するけれども、採用できない。すなわち、

原告の主張の骨子は、被告小林製作所による、イ号物件を実施品とする考案の実用新案出願に関する出願公告決定(実公昭55―第11976号)について、規制部(イ号物件の舌片に対応)同志が当接する右考案が実施不能であることを理由に原告が異議申立をした際、これに対する被告小林製作所の答弁内容が本件侵害訴訟における被告製品の当接に関する主張と異なるというのである。そうすると、被告木村新に対する主張としては、またロ号物件に関する主張としては、いずれも主張自体失当というべきである。

しかも、成立に争いのない甲第16号証(実用新案登録異議答弁書)によると、原告の実施不能の主張に対する答弁として「規制部同志の当接に関しては本来それほど厳密に考える必要はない。」とか、「開扉時における一方の係合片の没入時に規制部同志間に多少の隙間が空いても良い方向で本装置を取付ければ、現実には何ら問題とならない。」とかの記載があるけれども、これらの前後の記載を通読すると、被告小林製作所の言わんとするところは、係止片(イ号物件の係合片(8)・(8)に対応)と本体(イ号物件の本体(C)に対応)との取付け位置に関し、適正位置より若干ずれた場合にも、規制部(イ号物件の舌片(3a)・(3a)に対応)同志が当接し、その考案の共開き防止機能、両扉同時開放防止機能を果すことができる、とするに止まり、それ以上に規制部同志が当接しないというものでないことが明らかである。右のとおりであるから、原告の前記主張は採用できない。

また、原告は、被告製品が異なる作用効果を有するとしても、それは本件考案に附加した技術事項による附加的なものであって、本件考案を利用するものである旨主張するが、被告製品が本件考案と技術思想を異にし、本件考案の技術思想をそのまま利用するものでないことは、さきに説示したところから明らかであり、原告の右主張は採用できない。

7 以上によれば、被告らが業として被告製品を製造販売し、又は販売することは、なんら本件実用新案権を侵害するものではないから、右侵害を前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

よって、原告の本訴請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟第89条を適用して、主文のとおり判決する。

(金田育三 鎌田義勝 若林諒)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例